相続人の相続分②(指定相続分)
- 2015年06月12日
- 相続・贈与
指定相続分の内容
被相続人は遺言により相続分の指定及び指定の委託をすることができます。
つまり被相続人は自分の意志で法定相続分とは異なる相続分を定めることができるということです。
遺言による指定は、法定相続分に優先するので、遺留分に関する規定に違反していない限り、被相続人の思うように各相続人の相続分を決めることができます。
相続分の指定については次のような方法があります。
①「遺産の3/4を妻に、1/4を子供たちに相続させると」いった相続人全員の相続分を割合で指定。
②「遺産の1/3を子Aに」といった一部の相続人の相続分を割合でに指定。
③「自宅の土地建物は妻に与える」といった遺産分割方法の指定。
相続分を指定する場合、普通は①の方法により行いますが、実務的には③のような遺言がされるのが一般的です。
②のように、一部の相続人だけの相続分が指定されていた場合、他の相続人の相続分はどうなるのでしょうか?
例えば、夫、妻、子A、子B、子Cで夫が死亡した場合で子Aの相続分が1/3と指定されていた場合
まず子Aの相続分は1/3で確定です。
次に配偶者である妻は残りの2/3×1/2(法定相続分)=1/3
子Bは2/3×1/2(法定相続分)×1/2(子が2人なので)=1/6、子Cも同様に1/6となります。
指定相続分を無視した遺産分割
遺言により相続分が指定されても、相続人は必ずそれに従う必要はありません。相続人全員の合意があれば、指定相続分と異なった遺産分割を行うことができます。そのため被相続人が自分の思うように妻や子に財産を相続させたいと考えても、必ずその通りにならないというのが遺言書の問題点です。
また、遺言書で指定された相続分に従って相続税の申告をした後、指定内容と異なる遺産分割を行った場合には、贈与税が課税される可能性があるので注意が必要です。
相続税計算上の注意点
遺言による相続分の指定があり、それが割合で示されてる場合は、遺産分割協議が必要なになります。つまり指定された割合で誰がどの遺産を具体的に相続するのか決めることになります。
相続人同士の話し合いにより、具体的な分割内容がすぐに決定すれば問題ないですが、なかなか決まらずに未分割のまま相続税の申告期限を迎えた場合には、遺言により指定された相続分により申告を行うことになります。
未分割のまま申告する場合の注意点は次に2つになります。
①税務上の優遇措置が適用できない
未分割で申告する場合には、分割された遺産を対象とする税法上の優遇措置である「配偶者に対する相続税額の軽減」や「小規模宅地等の減額の特例」が適用できません。
この場合、これらの特例の適用を受けないで相続税の計算を行い、税金を一旦、納付します。その後、遺産分割協議により各相続人の相続分が確定した時点で、その確定した日から4か月以内に「更正の請求」を行い税金の還付を受けることになります。
このため分割が終わっていれば、優遇措置を適用して申告を行うことにより納税額が0円となる場合でも、一旦は税金を納付しなければならないため、納税資金を一時的に確保する必要が生じてしまいます。
但し、これらの優遇措置は分割された遺産には適用できますので、すべての遺産の分割が終了していなくても、一部の分割が終了している場合には、その終了している遺産については適用が可能です。
また、申告期限から3年以内に分割が終了しない場合には、その旨を記載した申請書を税務署に提出しておく必要があります。これを忘れると優遇措置の適用を受けれなくなるので、この点にも注意が必要です。
②債務の負担の問題
遺言により、相続分の指定がされた場合に、債務はどう承継されるのかという問題が生じます。
上記のように「遺産の3/4を妻に、1/4を子供たちに相続させると」という内容の遺言があった場合に、債務についても、妻が3/4、子供たちが1/4承継するのか、もしくは、法定相続分で妻1/2、子供たち1/2で承継するのかという問題です。
これについては、民法上と税法上で見解が異なります。
民法上では債権者との関係から法定相続分で承継するという考えが一般的ですが、税法上は指定相続分で承継するとされています。
一度、専門家に相談をしてみてください
このように、未分割のまま相続税の申告期限を迎えると、いろいろと不都合が出てきますので、「遺産分割でもめている」または「遺産分割でもめそう」という場合は、専門家に早めに相談することをおすすめします。
特に税務上の優遇措置を適用しないと税金が発生する場合などは、納税資金の確保などの対策をできるだけ早く行っておく必要があります。相続税の申告期限は相続開始から10か月しかありませんし、税務署はそれぞれの家庭の個別事情などは考慮してくれませんので、申告期限が来たらどのような事情があろうと申告納付しなければなりません。
県民合同では、相続問題に関し経験豊富な弁護士と税理士が共同でお客様の問題解決のお手伝いをしていますので、遺産分割でお困りのお客様は是非、県民合同にご相談ください。