税理士ブログ

相続人の相続分③(特別受益1)


特別受益者の相続分

相続人が複数いる場合には、相続財産に法定相続分を乗ずることによって各相続人が承継する具体的相続分も分かります。しかし相続人の中に被相続人から遺贈を受けたり、生前贈与を受けた者(特別受益者)がいる場合には、その遺贈や生前贈与を無視して遺産を分割したのでは、相続人間の公平が図れなくなります。
そこで、遺贈や生前贈与により取得した財産を相続財産の前渡しと考え、それを被相続人の相続財産に加算(持戻し)して各相続人の相続分を計算するのが特別受益者の相続分制度です。

 

特別受益者

特別受益の対象となる遺贈や贈与は「相続人」に対するものに限られます。そのため、相続人でない者や相続を放棄した者は相続人でないので、その者に対する遺贈や贈与は持戻しの対象とはなりません。
ここで注意しなければならないのは、生命保険の受取人である相続人が相続を放棄した場合の相続税法上の生前贈与加算の規定との違いです。
相続税法上の生前贈与加算の規定では、「相続又は遺贈より財産を取得した者が、その相続に係る被相続人から、その相続開始前3年以内に贈与により財産を取得した場合には、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する」としています。相続税法上、生命保険金は「みなし相続財産」となり、例え相続を放棄していたとしても、生命保険金を遺贈により取得したとみなされるので、放棄をした者であっても相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていた場合には、相続税の課税価格に加算され税額を計算することになるので注意が必要です。

 

 

特別受益の計算方法

まず、特別受益者が生前贈与により取得した財産の価額を被相続人の遺産の額に加算し、被相続人が生前贈与をしていなければ有していたであろう財産(みなし相続財産)を計算します。それに法定相続分を乗じて、その金額から各相続人の特別受益額を控除して各相続人の具体的相続分を算定します。

〈具体例〉

被相続人の遺産:140,000千円
相続人:妻、子A(遺贈により20,000千円を取得)、子B(生前に10,000千円の贈与を受けている)、子C

①相続時の遺産 140,000千円
②特別受益額  10,000千円(子Aの遺贈分は①に含まれている)
③みなし相続財産 ①+②=150,000千円
④具体的相続分
配偶者である妻 150,000千円×1/2=75,000千円
子A      150,000千円×1/6-20,000千円=5,000千円
子B      150,000千円×1/6-10,000千円=15,000千円
子C      150,000千円×1/6=25,000千円
※子の割合1/6は1/2(子の相続分)×1/3(3人子がいるので)

この計算により
配偶者である妻は相続分として75,000千円
子Aは遺贈により取得した20,000千円+相続分の5,000千円=25,000千円
子Bは生前贈与により取得した10,000千円+相続分の15,000円=25,000千円
子Cは相続分の25,000千円
となり、すべての相続人が法定相続分に応じた公平な具体的相続分となります。

 

持戻しの対象となる贈与と価額

①持戻しの対象となる贈与
民法上、持戻しの対象となるのは「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与」とされています。
「婚姻若しくは養子縁組のための贈与」は、持参金や結納金ということになります。
「生計の資本としての贈与」は居住用不動産の贈与や債務の引受などが考えられますが、「生計の資本」という言葉をどのように理解するかで見解が分かれる部分でもありますので、弁護士等に一度相談することをおすすめしています。

②持戻す価額
民法上、特別受益の計算で持戻しをする場合の相続財産の価額は、「相続時の時価」とされています。
一言で「相続時の時価」と言っても実際には時価ってなに?というような問題が生じますが、これについては、また別の場所に記載することにします。とりあえずは、相続開始時の一般的な取引価格と考えておくのがいいと思います。
また、相続開始時に、贈与を受けた財産が残っていない場合や変質している場合には、その贈与を受けた財産が、相続開始時に現状のままあるものとみなして、相続時の時価で持戻しを行います。

③生命保険金について
相続人のうち1人を受取人とする死亡保険金は、保険契約により保険金受取人が自己固有の権利として取得する権利であるため、基本的には遺贈、贈与には該当しません。
基本的にはと書いたのは、保険金の金額を受取る相続人と他の相続人との間で、あまりにも不公平がある場合には持戻しの対象とするという最高裁判決とこれを受けた高裁判決があるからです。
但し、現在では多様な種類の生命保険が存在しますので、その保険の種類や性質により判断するしかないと考えます。